メスをオスにする・・・には?
以前のブログでもちょこちょこ取り上げられている「ゲノム編集」技術ですが、こんなことをしている人たちもいるみたいです。
One-step generation of a targeted knock-in calf using the CRISPR-Cas9 system in bovine zygotes
Owen, J.R., Hennig, S.L., McNabb, B.R. et al. One-step generation of a targeted knock-in calf using the CRISPR-Cas9 system in bovine zygotes. BMC Genomics 22, 118 (2021). https://doi.org/10.1186/s12864-021-07418-3
ゲノム編集は ノックアウト:働いてほしくない遺伝子を壊す のと
ノックイン :本来持っていない遺伝子や遺伝子の発現を助ける配列を挿入する
の両方ができるんですが、この論文では高効率な方法によって受精卵に対しても実用的にゲノム編集ができるようです。
できたての受精卵は特にゲノム編集に必要な「相同組み換え」というやつが起こりにくいらしくて、ゲノム編集が起きるタイミングが遅れちゃうことも多いのだそうで。そうすると例えば4細胞まで発生してからそのうちの一つの細胞でだけゲノム編集が起きて、発生が進んだ時にゲノム編集できた細胞とできなかった細胞が混じった状態になるんだそうです。
それで、この論文の研究者たちは相同組み換えにを引き起こしやすい方法を提案してゲノム編集を受精卵に実施したわけですが、彼らは「SRY」という遺伝子をノックインした受精卵から実際に産仔を得られたようです。
SRYとは哺乳類のY染色体上にある遺伝子で、これが常染色体上のオスがオスになるために必要な遺伝子たちを「叩き起こす」わけです。
今回得られた産仔は残念ながらそもそもオスだったので、実際に導入したSRYが機能して性腺が発達しているか(要は、精巣ができて精子が作られるか)は検証できていないようなので、気になるところですね。
それと、性染色体ではXXを持っていて精巣がある個体はオスなのかメスなのか、定義が難しそうですね。
SRYというともう一つ気になる話題を見つけまして、公開自体は一年ほど前のものなのですが
「マウスのSRYが実は既知のものと少しお尻のほうの形が違うものが発見された」のだそうです。
しかこの新しいSRYのほうが性決定において重要な機能を持っているらしく、どちらかといえばこちらのほうがオス化するには必須なのだそうです。
このように生物の基本的な仕組みである性決定ですが、新しい技術で性をコントロールしたりその仕組みについて新しい発見があったり、まだまだ研究対象として発展していきそうな予感がします。
TKH
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