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研究 Feed

2021年6月 3日 (木)

タンパク質をお掃除!

ある遺伝子の働きを調べるためにその遺伝子を機能しない状態にして観察することを「逆遺伝学」なんて呼んだりしますが、最近ではこちらの方が主流のような気もしますね。


遺伝子を働かなくさせる方法はそれはまあ色々とあるわけですが、一番強力なのは遺伝子ノックアウトでしょうか。これは遺伝子のコードされているDNAそのものを壊すので当然最も顕著に効果が現れます。ただ、これはDNAそのものを変えるので結構大変です。(ゲノム編集技術によってだいぶ簡単になったようですが)


遺伝子が働く場合は概ねDNA→RNA→タンパク質 という経路をたどるので、RNAを標的にすることでも遺伝子の働きを抑えることができます。これはRNA干渉という方法が有名ですね。

これは細胞にRNAを導入すればできるので、ノックアウトよりも頻繁に行われている気がします。ただタンパク質のターンオーバーが遅い(寿命が長い)場合は効果がでるまでに時間がかかるので、受精卵のように時々刻々と状態が変化するものには向かないんじゃないかなーと個人的には思っています。


そんな時に役に立つのがタンパク質を直接的にターゲットにする方法ですね。
阻害剤添加がポピュラーかと思いますが、これは「この薬が働きを阻害しているのって本当に目的のタンパク質だけかい?」という疑問が永遠に付きまとうし、阻害剤がないとそもそも行えません。

そんな時に役に立つかもしれないのが、今日紹介する「Trim-away」という方法です。


Clift D, McEwan WA, Labzin LI, Konieczny V, Mogessie B, James LC, Schuh M. A Method for the Acute and Rapid Degradation of Endogenous Proteins. Cell. 2017 Dec 14;171(7):1692-1706.e18. doi: 10.1016/j.cell.2017.10.033. Epub 2017 Nov 16. PMID: 29153837; PMCID: PMC5733393.

Trim21というタンパク質と抗体を細胞に導入してやると、Trim21は抗体が結合した抗原をまるごと分解に導いてくれます。そこで機能させたくないタンパク質に結合する抗体を入れてやれば、それが分解されることになります。(文字よりリンク先の図を見た方がわかりやすい気がします)


つまり、実験する側は抗体さえ変えれば目的のタンパク質の働きを抑えられるんですね~。抗体って高いけど・・・。
しかもタイトルに「acute and rapid」とあるようにかなり効くのが早く、入れて数十分でも効果が見られるようです。
これなら「受精卵の2細胞期に働くタンパク質を抑えたい!」というような注文にもこたえられそうですね。
また抗体は一般的には阻害剤よりも特異性が高いと考えられるので、その点でも安心ですね。

この技術を用いた研究が卵子や受精卵で段々と行われているようなので、そこら辺もチェックしておきたいですね!!

TKH

2021年4月16日 (金)

胚段階でのゲノミック選抜について

ゲノム育種が現場に導入され始めてしばらく時間が経ちましたが、

子牛市場等でもゲノム育種価が公表されるところが出始め、

機運が高まっているような気がします。

遺伝的改良を効率よく進めるためには、世代間隔、選抜の正確度等が

重要となります。

Potential of preimplantation genomic selection for carcass traits in Japanese Black cattle

Journal of Reproduction and Development 65, 251-258.

この論文では受精卵をバイオプシーし、15細胞ほど切り取りDNAを抽出、

残りをガラス化保存して、ETしております。

15細胞ほどでも全ゲノム増幅を行うことによって、大部分の受精卵で

ゲノム育種価予測可能な精度のSNPデータを得ています。

また、バイオプシーした受精卵をETした際の受胎率は、

41.9%であり、バイオプシーなしの受精卵を移植した場合より

多少低い程度であると報告されています。

受精卵段階でゲノミック選抜ができれば、

世代間隔が劇的に縮まり、

より効率的な遺伝的改良が期待できます。

ET研牛群のより効率的な改良、

高能力受精卵の製造の為にも

今後、研究として取り組んでいきたいです。

Z

2021年3月20日 (土)

PGに頼らない子宮蓄膿症治療への挑戦

色々と考えさせられる論文があったのでご紹介します。
先に言いますが、挑戦は失敗に終わっていますのでタイトルを見て期待してしまった方はごめんなさい。
A randomized controlled clinical trial on the effect of acupuncture therapy in dairy cows affected by pyometra 2020
子宮蓄膿症の治療として、まずはPGF2αを投与するなどして、黄体を退行させる必要があります。日本の獣医師ならばだいたいそうすると思います。
今回の報告ではPGを使わない子宮蓄膿症の治療に挑戦しています。
さて、何をしたか。
PGを使わない…。
薬を使わない…。
薬の入っていない注射。
注射。
針!?
と筆者らが考えたかはわかりませんが、この文献では鍼治療を行なっています。
そんなんで治るのかよ、と思ったみなさん。甘く見てはいけません。
鍼治療で繁殖性が改善したという報告はちらほらあるのです。
経絡を鍼で刺激するのが鍼治療ですが、刺激できれば何でも?良いそうで熱で刺激するお灸も鍼と同じ戦略です。
今回は鍼治療とレーザー刺激の2パターンを実施しています。

さてその効果は!
とまあ冒頭書きましたが、残念。効果はありませんでした。
はい、全く。

何がしたいんだよ!とツッコミが入りそうです。私も論文読んで思いました。
ただこの実験を行なった経緯を読むと色々と考えさせられます。
この研究はアメリカの報告ですが、アメリカでは通常の牛乳とは別にオーガニック認定を受けた牛乳が販売されています。
このオーガニック牛乳を生産する牛には、なんとPGを投与することができないそうです。他にも抗生剤が使えないとか、遺伝子組み替えの飼料を与えられないとか、非常に厳しい基準が設けられています。
そのため、今回のような普通だったらとりあえずPGとか抗生剤という治療が行えず、何とかして治療する方法がないか検討しているそうです。
子宮内膜炎の治療に出てきたキトサンもこの流れなんでしょうね。天然由来で治療しようというコンセプト。
他にもオゾンで治療とか一見すると驚く治療方法ですが、それのような戦略をとらざるを得ない世界があることを学びました。
今、付加価値で強い農業を推進する流れがあると思いますが、オーガニックなんかはそれに該当するものの1つだと思います。ちなみにオーガニック牛乳は通常の倍くらいの値段だそうです。
トンデモナイ研究だ、といって受け入れないのではなく、我々も農家さんのためを思うならばそういった世界もあるという広い視点も持って仕事にあたる必要があるのかなと考えさせられました。

2021年3月 7日 (日)

ブラジリアン授精術

ブラジル発の論文が面白かったのでご紹介します。
(The effect of clitoral stimulation post artificial insemination on pregnancy rates of multiparous Bos indicus beef cows submitted to estradiol/progesterone-based estrus synchronization protocol)
この論文曰く、ブラジルの人工授精師はAI後に“clitoral stimulation”なる技を使うそうです。ウシの飼養頭数世界一のブラジルで一般的に行われているというこの技、気にならないわけがありません。
“clitoral stimulation”の意味はここで載せていいのかわからないので、各自辞書で調べてください。

さて、この論文ではAIの直後に3秒間の“clitoral stimulation”を行い、その後の受胎成績を調べています。
で、気になるその結果は…

なんと5%ほど受胎率が高い結果に!!

ただ有意差はありません。つまり結論は効果なしです…。

期待させといてなんだよ、と思いますが、筆者たちは真面目でして、過去の文献との比較を行ない効果の無かった理由をちゃんと検証しています。

“clitoral stimulation”の歴史は古く、1975年に米国にて最初?の報告が見られます。この時は6%ほどの受胎率向上を達成したそうです。
ほかに1994年の報告では12%の受胎率向上を記録しております。ちなみにこちらはメキシコ。

さて、今回の論文で効果の無かった理由として、定時AIであったことを挙げています。
そもそも“clitoral stimulation”の効果については、はっきりしないようで、言われている説としては神経系を介した子宮への効果が考えられているようです。ただ、今回の論文にあるようなホルモン剤を使用した定時AIでは、ホルモン剤の効果の方が高いため、その効果が出なかったと考察しています。
他にも3秒で良かったのか、文献によって5秒とか10秒とかもあるのでまだまだ検証の余地はあるかもしれません。

ちなみに12%の向上を記録したメキシコの文献では、技術者によって効果が異なったそうです。また乾季や雪の季節よりも雨季で効果が高いとのこと。特殊なテクニックが必要なのか、あとは湿度が影響しているのか…うーん、奥が深い。
神経系への作用から、神経質なウシを落ち着かせる効果もあるとの報告もあります。ただ今回の論文でも調査していたのですが、行動やウシの気質への効果は見られなかったようです。

有意差はありませんでしたが、5%受胎率が高かったことは事実ですし、有意差のあった報告も見られます。特にコストも必要ないのでブラジルに習って取り入れるしかないでしょう。
是非みなさんトライしてみてください。既にやっている方もいると思いますが。
それでもし受胎率向上したら手技含め是非教えてくださいね。

2021年2月28日 (日)

借り玉、精子生産

中々興味深いニュースがあったので報告します。
(Donor-derived spermatogenesis following stem cell transplantation in sterile NANOS2 knockout males.2021)

ヤギで他の個体の精巣に精子の素になる細胞を移植して精子を作らせた、という報告です。

どういうことかと言いますと、NANOS2という遺伝子を破壊(KO)すると、精巣の構造に問題はないのですが精子ができない個体を作る事ができます。
このNANOS2-KO個体(レシピエント)の精巣に他の個体(ドナー)の精子を作る素の細胞(精子幹細胞)を移植すると、なんとドナーの精子をレシピエントが作り出したそうです。

理論的には可能だと思うのですが、現実のものとなったことは大きな衝撃です。
今回は、マウス、ブタ、ヤギで成功しており、さらにウシでもKOはできているのでウシへの応用も時間の問題です。

他の個体の細胞が入ったら免疫で除外されそうな気もしますが、とりあえずは大丈夫だったようです。

ただ残念なことに、できた精子には受精能?が無いようで、そこに免疫との関連も考察されおり、今後の発展に期待したいところです。

ヤギにウシの精子作らせるとかが実現するのも時間の問題ですね。

2021年2月19日 (金)

X染色体上のマーカーを含めたゲノミック評価

ゲノミック評価において性染色体のマーカーは利用されないことが多いです。

これは、雄と雌で伝達様式が異なるなどの理由があります。

しかし、X染色体は、ゲノムの中で2番目に大きい染色体であり、

表現型に影響を及ぼす遺伝子が含まれていると考えられます。

本論文では、密度の異なるチップのSNPマーカーを用いて

片方のチップで無いマーカーを補完する(インピュテーション)

際の精度とX染色体上のマーカー使用の有無による

乳形質や繁殖形質、増体形質等様々な形質の

ゲノム育種価の予測精度を比較しております。

結果はX染色体のマーカー使用により、

ゲノミック評価の精度がわずか(0.3~0.5%)に向上しました。

また、X染色体を除いた際の予測精度の低下は、

同程度の大きさの常染色体マーカーを除いた時よりも

小さかったようです。

この理由については、X染色体のマーカー密度が

低いことと本試験でのデータ構造が影響していると

考察されています。

本論文では、X染色体のマーカーを加えることによる

信頼度の向上はわずかであるが、

マーカー利用のコストがかからないため、

使用を推奨しております。

ET研のデータには、X染色体のマーカー情報がない個体も

多数いるため、利用は難しいかもしれませんが、

一度分析してみたも良いかもしれません。

黒毛の枝肉形質では、ゲノムインプリンティングの影響も

示唆されてるので、次はこのあたりの論文を紹介したいと思います。

2021年1月22日 (金)

ゲノム育種価と推定育種価

ゲノム育種価と県育種価で一致しないことがある。

そういった話を耳にすることがあります。

ゲノム育種価と各県等で推定している

血統情報を基にした育種価(ここでは推定育種価とさせていただきます。)

になぜ乖離が出ることがあるのでしょうか。

DNAで黒毛和牛の能力予測

こちらの記事を見ますと

育種価正確度0.95以上の種雄牛99頭、

育種価正確度0.90以上の若雄牛20頭

および育種価正確度0.80の繁殖雌牛110頭

でゲノム育種価の精度検証を行っています。

結果は

・正確度の高い種雄牛におけるゲノム育種価と

 推定育種価の相関は非常に高い

・ゲノム育種価の方が期待育種価よりも正確度が

 高く有効な早期指標となりうる

※期待育種価は両親の推定育種価の平均値から

 算出される育種価です。

・繁殖雌牛では、育種価の相関は中程度

となっております。

推定育種価の正確度が高まるほど、

ゲノム育種価との相関が高くなるということです。

特に繁殖雌牛では、採卵等で産子を確保しない限り、

自身の産子の肥育成績が集まるスピードが非常に遅いです。

また、肥育成績が少ない際は、少数の肥育記録に推定結果が

引っ張られてしまいます。

このあたりがゲノム育種価と推定育種価の乖離理由の

一つではないかと思います。

他にも安福久産子などは、乖離が出やすく、これには

性染色体上の候補遺伝子存在の可能性やゲノムインプリンティング

の影響が示唆されています。

ゲノム育種価のメリットの1つは世代間隔の短縮です。

ET研では、子牛の段階で

0.8程度の正確度でゲノム育種価予測ができます。

これは、各県等で程度は異なるかと思いますが、

大体5頭分の産子の肥育記録が得られた際の

推定育種価の正確度に相当します。

5産して、さらに生まれた子牛が肥育・屠畜されるまで

かかる時間を考えると大幅な時間短縮が

できていることがわかるかと思います。

ゲノム育種価はなるべく若い牛を対象に検査し、

保留の判断に使うのが一番効率が良いと

考えられます。

ET研究所でもゲノミック評価はできますので

ご興味がある方は、ぜひご連絡ください。

2021年1月 8日 (金)

標準化したゲノム育種価について

かなり前になってしまいますが、ゲノムプレミア卵の

総合育種価についてコメントでご質問がありましたので、

答えさせていただきます。

遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。

リスト販売の書類では、

「枝肉重量、脂肪交雑、歩留基準値の標準化した

ゲノム育種価を1:2:1の割合で足し合わせたもの」

と記述しておりますが、確かに文章では伝わりにくいですね。。

今回はET研保有種雄牛を例に見ていきたいと思います!

Photo_2

まず枝肉重量について見てみますと標準化育種価は

1.87ですね。

例えば、±1σ(標準偏差)に収まる割合は

約68%です。

上位のみで考える場合、(100-68)/2=16%です。

つまり、標準化育種価が1だった場合は、

ET研供卵牛群(淘汰済み含む)と比較して上位16%

くらいの位置にいるということです。

枝肉重量の1.87は、正規分布表を見ると上位約3%、

脂肪交雑の1.29は約10%、

歩留基準値の1.38は約8%です。

こちらを1:2:1の総合育種価に変換すると

1.87+1.29×2+1.38=5.83

というように算出しております。

この値で順位を付け、ゲノムプレミア卵

を決定しています。

コメントをくださった方ありがとうございました。

今回の説明でご理解いただければ幸いです。

他にもご要望、ご質問等ございましたら、

コメントいただければと思います。

よろしくお願いいたします。

Z

2020年12月10日 (木)

受胎率は子宮の大きさで決まる??

 ホルスタインで人工授精時の子宮が大きいほど受胎率が低くなる、

という論文が3,4年前から何本か出ているようです。

今回は受胎率のみならずその原因やその後の妊娠が維持されるか

どうかまで調べた論文(まだ出たばかり)があったので紹介します。

Size and position of the reproductive tract impacts fertility outcomes and pregnancy losses in lactating dairy cows

A.M.L. Madureira et al., Theriogenology. 2020 Dec;158:66-74.

この論文によると、子宮が大きく位置も下がっているウシでは

受胎率が低く、また子宮の大きいウシの割合は経産牛の方が

高いようです(それはそうか)。

子宮が大きいほど受胎率が低いのは人工授精が難しくなる

からではないか?と最初は思ったのですが、どうやらそう

ではないらしく・・・理由はわかりませんが子宮が大きい

ウシでは無排卵の割合が高かったそうです。

さらに妊娠24日ぐらいから、発達してきた受精卵からでる

糖タンパク質が血中に移行するらしく、これを測定することで

その後妊娠が維持されるか予測できるそうなのですが、

子宮が大きかったウシではこの糖タンパク質の濃度が低く、

妊娠30日目から60日目の間に胎子が死んでしまう割合が高かったそうです。

この論文のように子宮の大きさからその後の受胎性が予測できると

すれば、牛群の管理・更新をするときに役立つかもしれませんね。

TKH

2020年11月23日 (月)

北海道における性選別精液の受胎率について

 現在ではその利用がかなりポピュラーになっている性選別精液ですが、やはり性選別の際のダメージから通常精液よりも受胎率が低いことが課題になっています。そこで今回は北海道でのホルスタインにおける通常精液と性選別精液の受胎率についてまとめた論文を紹介します。

Oikawa K et al

Effects of use of conventional and sexed semen on the conception rate
in heifers: A comparison study

Theriogenology Volume135, 1 September 2019, Pages 33-37

リンクはこちら

2012年から2016年までの未経産牛の初回授精に限ったデータですが、通常精液が受胎率56.9%に対して性選別精液では47.3%とやはり低い結果となりました。

また性選別精液は特に授精月による受胎率の差が大きく、最も高い1月で51.8%に対して最も低い7月で43.6%でした。

性選別精液は夏場の受胎率の落ち込みが激しいことから、通常精液と比べて授精時の高温にともなう母牛のストレスや排卵のタイミングのずれなどによりセンシティブなのかもしれません。