繁殖寿命を制御する遺伝子
最近興味深く読んだ論文をかいつまんで紹介いたします。
題:Loss of the pro-apoptotic BH3-only protein BCL-2 modifying factor (以下BMF) prolongs the fertile lifespan in female mice(和訳:アポトーシス促進性のBH3-onlyタンパク質であるBMFが雌マウスにおける繁殖寿命を延長させる)
著者:Seng H. Liewら
ジャーナル:Biology of Reproduction in Press. Published on February 26, 2014 as DOI:10.1095/biolreprod.113.116947
緒言:
女性の繁殖寿命は卵巣内に原始卵胞として貯蔵されている卵母細胞の数に影響される。
貯蔵されている原始卵胞で、発育したもののほとんどは退行し、実際に排卵までにいたるのはごくわずかである。
胎生期および出生後の卵巣発育における細胞死(アポトーシス)が卵巣内における原始卵胞数を決める重要な役割を果たしているが、個々のアポトーシス制御因子の役割はよくわかっていない。
アポトーシス促進タンパク質の一つであり、精巣において生殖細胞のアポトーシスを引き起こすと考えられているBCL-2-modifying factor(以下BMF)が生体卵巣内で維持される原始卵胞数と繁殖寿命の長さの決定にどのような役割をもつかを調査するため、遺伝子改変マウスを用いて実験を行った。
方法:
・野生型マウスおよびBMF欠損マウス(以下BMF-/-)それぞれについて、日齢20、100、200、300、400、545で各6頭のマウスを使用し、卵巣を回収。鏡検し、卵胞数および退行卵胞数を計測
・20、150、300日で過剰排卵処理を実施、排卵誘起した後、卵管より卵子を回収し、卵子数を評価
・野生型とBMF-/-マウスそれぞれを野生型オスと同居させ、18ヶ月齢までの産子数、分娩頻度、産子の健康状態を記録。
結果:
BMF-/-マウスは
・原始卵胞数が野生型マウスに比べ、出生後20日目では変わらなかったが、100、200、300、400日で多くなった。
・退行卵胞数が20日目まで有意に少なく、以降の日齢では野生型と変わりなかった。
・過剰排卵処理により得られた卵子数は野生型マウスと変わらなかった。
・繁殖能力について:下表参照
考察:本研究はBMFが成体の繁殖適齢期を通して卵巣内において維持される原始卵胞数を決定する重要な役割を果たしており、したがってBMFの働きを抑制することで、卵巣内に維持される原始卵胞数が増加し、女性の繁殖寿命を延長させることができるかもしれない。
この報告はマウスについての報告ですが、牛でも同様の遺伝子改変動物が作出できるなら、産子数の増加が見込めるかもしれません。
また、全農ET研究所では黒毛和種供卵牛に対し頻回のにわたる受精卵回収を行っています。採卵を繰り返し行っていくうちに品質の高い受精卵がほとんど回収できなくなってきますが、本研究と同様の形質を持った牛ならば、安定して長期間にわたり高品質の受精卵が回収できる事も見込まれます。
調べた限りでは牛についてはまだBMFについての報告はないようですが、牛でも同様な遺伝子が見つかれば、高い繁殖能力を持った牛の選抜につながりうるかもしれませんね。
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