卵巣機能回復を促進させるには?
新ETで農家さんを回っていると、分娩から60日以上経っているのに卵巣機能が回復していない牛に出くわすことがあります。
卵巣機能が回復するのを待っている時間がもったいない
そういった牛を、事前に、どうにかして卵巣を動きやすくする方法ってあるのかなあと調べていたら、こんな報告がありました。
「乳牛の分娩後早期におけるエストラジオール処置による卵巣機能回復促進効果」
日獣会誌 64, 865-869(2011)
緒言:Kawashimaらは分娩後3週間以内に最初の主席卵胞が排卵した牛では初回授精受胎率が高く、空胎日数が短くなることを示していて、その後の繁殖成績の向上に繋がると述べている。このことは、成熟卵胞からのエストロジェン分泌が増加し、視床下部にフィードバックしてGnRHパルスを誘起して、最終的にLHサージが起こり排卵すると考えられている。
本研究では、乳牛において、分娩後最初に出現する主席卵胞が成熟する時期である分娩後14~18日に安息香酸エストラジオール(EB)6mgを投与し、分娩後早期の卵巣機能回復及びその後の繁殖性の改善について検証した。
方法:正常分娩したホルスタイン種成熟雌牛314頭を無作為に2群に分け、試験区164頭にEB 6mgを投与。対照区150頭は無処置とした。分娩後60日以内の初回授精率、受胎率、100日以内の受胎率及び100日以上無発情を示す牛の割合を調査した。
結果:EB投与2日後に排卵し、7日後に黄体化したものは86.0%であり、対照区の38.9%より有意に高率であった。
さらに分娩後60日以内の授精率は試験区で68.9%と対照区の47.3%より高かった。
初回授精受胎率は試験区51.9%、対照区43.8%だった。
また、100日以内の受胎率は試験区の50.3%、対照区45.9%で受胎率に有意な差は無かった。しかし、100日以上無発情の牛は、試験区で11.9%で対照区の24.3%より有意に低減された。
考察:今回の方法では、EB投与で発情が誘起した際に授精するのではなく、排卵によって黄体形成を促し、卵巣機能回復を刺激して次回の発情のタイミングを容易に予知し、授精業務を補助することが可能であると考えられる。
EB投与により排卵と黄体形成を促進させるメカニズムとして、EB投与により血中エストラジオール濃度が増加し、視床下部へのフィードバックによりGnRHの放出を誘起し、LHサージを起こさせた可能性が推察される。
さらにEB投与により子宮平滑筋のオキシトシン受容体を増加させ、搾乳時のオキシトシン分泌刺激により子宮回復を促進したと考えられる。
したがって、今回の方法は牛群の繁殖管理や獣医師の検診・診療への労力軽減できると考えられた。
教科書では分娩後無発情の牛に対して、CIDRとGnRHを併用したりhCGを使用したりと、色々あの手この手で治療していきます。
そうなる前に、分娩後の初回授精を行う前に、分娩後14~18日目にエストラジオールを投与するのも一つの手かもしれませんね
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