受精卵の遺伝子を書き換える
近年何かと話題のゲノム編集。このET研ブログでも何度か取り上げていますが違った視点からゲノム編集の現状をお伝えします。
ゲノム編集という言葉を新聞などで見聞きすることもあるかと思いますが、ゲノムDNA自体を書き換える行為自体はもっと昔から行われています。特定の遺伝子を働かなくさせたノックアウトマウスが初めて作られたのが1980年代であることが一例かと思います。
じゃあゲノム編集がなぜ最近話題になったかというと、2012年に新しいゲノムDNAの書き換え技術「CRISPR-Cas9システム」(クリスパー・キャスナインと読みます。格好いいですね。)が開発されました。
これは、複雑で一つの遺伝子を書き換えるのに何年もかかっていたものを簡単に、低コストで行うことができる技術であり、以前にくらべて書き換え技術が爆発的に普及したことにあります。
またこの方法の利点は他にもあり、今までできなかった種類の細胞にも適用できるようになりました。それが受精卵です。受精卵にゲノム編集を施し、出生に至ったというニュースが以前ありましたが、それにもこのCRISPR-Cas9システムが使われました。
前段がまた長くなってしまいましたが、今回紹介するのはウシの受精卵に直接CRISPR-Cas9した場合、どの程度思い通りにゲノム編集ができているかを調べた論文です。
Evaluation of mutation rates,mosaicism and off target mutations when injecting Cas9 mRNA or protein for genome editing of bovine embryos
Sci Rep. 2020 Dec 18;10(1):22309.doi: 10.1038/s41598-020-78264-8.
この論文でわかったことは大きく分けて2つです。
① 編集に必要なCas9タンパク質は、mRNA(タンパク質の設計図の状態)で受精卵に入れるよりも、タンパク質そのものの状態で入れた方が効率が良い
② 細胞分裂を繰り返した受精卵を調べてみると、書き換えに成功している細胞と失敗している細胞が混在している場合がほとんど(モザイク卵といいますが、やましい意味はありません)。
論文の筆者は②について、遺伝子の書き換えには受精してから18時間の受精卵を用いたためではないかと主張しています。受精してから18時間たつと、受精卵はすでに最初の細胞分裂の準備をかなり進めており、一つの細胞の中に細胞二つ分のDNAが入っているためです。
またこの論文では深堀していませんでしたが、CRISPR-Cas9システムの欠点としてDNAの目標にしていない部分も書き換えてしまう可能性が他の方法に比べて高い点があります(オフターゲット効果といいます。格好いいですね)。
CRISPR-Cas9システムは確かに画期的な方法ですが、倫理面と技術面の両面でまだまだ改善の余地がありそうですね。
TKH
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