少し前の話になってしまいますが、先月の12日から14日、東京農工大で開催された「第106回日本繁殖生物学会大会」に参加して参りました
その際特に筆者自身が興味深く感じた発表についてご紹介させていただきます。
新ETシステムでは移植1~2日前に「黄体検査」を行い、黄体がきちんと形成されているか、左右どちらにあるかを超音波診断器でチェックするわけですが、この際黄体がある卵巣に卵胞(エコーで黒く抜ける部分)がある場合とない場合があることにお気づきの農家の方もいらっしゃるかと思います。
図1
この時見られる大きな卵胞は卵胞発育の第一波でできた主席卵胞であり、この卵胞が黄体と同じ卵巣にあるかないか(図2)により人工授精の成績に極端に影響が出るという発表がありました
図2
「黄体と同側の卵巣に位置する第1卵胞波主席卵胞の存在はウシの受胎率を低下させる」
三浦 亮太朗ら(帯広畜産大)
目的: 第一卵胞波が繁殖生理や受胎性に与える影響はよく分かっていない。
→第一卵胞波主席卵胞が黄体と同一卵巣内に共存するまたは共存しないことが人工授精での受胎率にどのような影響を与えるのかを検証した。
結果:
総頭数
(総受胎率)
|
114頭(57.0%)
|
黄体と
第一卵胞波
|
非共存(60頭)
|
共存(54頭)
|
AI受胎率
|
72.2% (経産:62.1%,
未経産:84.0%)
|
40.4% (経産:27.6%,
未経産:55.6%)
|
上記の表のように第一卵胞波主席卵胞と黄体が共存する場合はそうでない場合と比べて極端に受胎率が低くなった。
また、血中プロジェステロン濃度は排卵後3日目で非共存群が高くなり、それ以降(6,12日目)は差がなかった(経産牛のみのデータ)。
・・・といったように、受胎率が30%近くも異なるという衝撃的なデータが出ています
研究所職員が取ったデータでは、ET前の黄体検査で第一卵胞波主席卵胞が黄体と同一卵巣内に共存するか共存しないかにより受胎率に差はありません。
これは今回紹介した発表において、6日目以降のプロジェステロン濃度に差がないことからも頷けます。
つまり、第一卵胞波主席卵胞は黄体が形成されつつある初期の段階で悪さをし、黄体がしっかりと形成された後はあまり影響がないのではないか、ということです。
もし授精後初期段階で主席卵胞が排卵した卵胞と同側に見られるなら、CIDRなどのプロジェステロン製剤の投与が特に有効になるのではないかなぁ、と感じました。もしくはいっそ卵胞を吸引 or 破砕してしまうのも一つの手なのかもしれません。