妊娠鑑定で少し不思議な例があったので紹介したいと思います。
本牛は発情から6日目の7月13日に胚移植をおこないました。
その後の8月15日(胎齢40日)に妊娠鑑定をおこなったところ下のような画像でした。
一見すると腔もばっちりで胎子も確認できますが、少し小さいような…。念のため翌週再鑑定をおこなうことにしました。
その1週間後の8月22日のエコー画像が下です
腔がさらに大きくなりました。胎齢47日。しかし胎子の形がはっきりしません
もし胎子が死んでいたのなら腔は大きくならないように思えますが…。
念のためさらに翌週
胎齢54日目。一週間前とほぼ変わらず…。胎子は死んでしまったのでしょうか?
またさらに翌週
これが今日のエコー画像です。腔が小さくなり、ようやく確信をもって胎子が死亡したと判断できました
この例のように胎子が死んでしまっていても(死ぬ直前?)、腔が日齢に応じて大きくなったり、その腔が60日過ぎまで確認
できることもあるようです。
いったいどの時点で胎子が死んだのかは不明ですが、40日目の時点で違和感を感じたことから胎子は既に死んでいたように思います
となると胎子は死んでも腔は大きくなる…。小さな命をどうにか繋ぎとめたい母牛の頑張りがこのような事象を引き起こしたのでしょうか?
そう考えるとちょっと切なくなる症例でした
先日、
そんなことができればいいですね
以前、「雄?雌?」でも紹介しましたが、ここ数年で2,000個近くの受精卵の性判別を担当しました。
2,000個もやれば「受精卵の顔つき」で性別が判断できるように・・・・・
はい、なりません
しかし、本日は「ある表情」のとき、雄の比率が多いように感じるというお話です。
(これからお示しすることは私見です。同調者はおりませんのでご注意ください。)
それは、受精卵が全体的に「黒い」時・・・。
それでは、受精卵の「黒さ」とは何でしょうか?
牛受精卵は<脂質>の量で黒さが異なります(多いほど黒くなる)。
脂質はエネルギーの源なので、卵子や受精卵には大切な物質です。
しかし、それが多すぎると受精卵の品質が低下したり、凍結に対する抵抗力が弱くなることが知られています。
さらに、この「黒さ」は動物種によっても異なります。
マウス卵子は透明に近く、顕微鏡下で染色体の場所が確認できるほど。
また、豚卵子は脂質が非常に多いため牛より「真っ黒け」。
従って、豚の卵子や受精卵の凍結保存は牛と比較して難しいのだと思います。
さて、性別の話に戻りましょう。
「黒い」と感じた受精卵の雌率を精査すると、何と25.3%・・・
なぜ、「黒い」受精卵は雄が多い傾向にあるのか?
?????
では、なぜ、「黒い」受精卵が生産されるのか?
それは、母親の体内環境によるものではないかと推察しています。
その要因としてエネルギーバランス、ホルモンバランス、餌、年齢、遺伝などが挙げられると思います。
これらのことから、予測できるトンデモ系仮説は・・・、
①黒い卵子を排卵するような体内環境の母親に授精された精子は、Y精子が選択的に活性化(あるいはX精子が不活化)。
②黒い卵子はY精子が入りやすい構造(あるいはX精子が入りにくい)。
③受精時の性比は普通に1:1であるが、初期の発育段階で雄側へ偏りが生じる。
また、この「黒さ」が、受精する精子(雄側)の要因である可能性も捨てきれません。
いずれにしても「なぜ、黒い受精卵は雄が多いのか?」を証明することは難しいようです。
これが真実であるかもわかりませんし。
性比コントロール・・・、やればやるほどドツボにはまりそうです。
念押しいたしますが、これは私見であり、「黒い」という判断もNile Red等で染色して黒さを測定したわけではありません。
「今日の受精卵は黒いから凍結に対する抵抗性が低いかなー」とノートに印をつけたものをまとめたものです。
その歩く姿から緩歩(かんぽ)動物と言われるクマムシ。
うらやましいことにストレスに強いんです。
どれくらい強いかと言うと・・・・、
ハンパないですよ
「120年間、乾燥に耐える」
「6,000気圧の超高圧に耐える」
「真空状態に耐える」
「多量の放射線に耐える」
「-273℃の超低温に耐える」
「+151℃の高温に耐える」
耐えて耐えて耐えまくりです
すなわち、液体窒素に「ジュー」っと入れて、電子レンジで「チーン」しても生きてるわけですね。
(注:凍結および融解スピードが影響するかもしれませんが)
しかし、本当にそうなのか?
試してみたいところです
「最強戦士」はどこにでもいるそうなので、すぐに見つけられます(要顕微鏡)。
数年前から子供の夏休みの宿題のテーマにと仕向けていますが、未だ実行できず。
今年こそは
5分30秒で凍結とクマムシがわかります(ナレーション付き)。
YouTube: クマムシ / Water Bears 地上最強の生物
牛受精卵の凍結保存技術の進歩も著しく、近年ではかなり高い受胎率が得られるようになりました。
凍結受精卵と言えば・・・・、
6月7日、ET研の「受精凍結卵リスト」を更新!
今回は「隆之国」、「光平照」など人気の種雄牛の受精卵を取り揃えました。
でも、目玉は・・・・、
レーガンクレスト エルトン ダーハム ET × ハイロード ダンデイー エピソードの凍結受精卵
詳細は、本ブログ右上の「受精卵リスト」からご覧いただけます。
今週妊娠鑑定をしていると、おや?と思う超音波画像がありました。
左の画像は30日目の妊娠鑑定時の画像です。
一見すると子宮内に胎水が十分に貯留し、妊娠している画像にみえます。
しかし、いつもなら白く見える膜のなかにいる胎子が見当たりません…
右の画像は同じく30日目なのですが、まず子宮内の胎水が少ないように見えます。
そしてうっすらと、ひも状のものが浮いているのが確認できると思います
じつはこの2つの画像、どちらも胎子が死んでいる状態もしくはその前兆なのです
こちらもまた別のときに見つけたものですが、30日目にしては胎水が少なく、胎子らしき塊がみえますが形がいびつではっきりしません。この牛は翌週には子宮の中には、何もいなくなり、結局妊娠はマイナスでした
初めの2つの画像の牛も、翌週に胎水がなくなればはっきりとマイナスの診断ができると思いますが、時には60日ころまで残っているものもあります。このような牛では、しっかりとした妊娠鑑定をおこなわなければ見落としてしまう可能性もあるので注意が必要ですね。
ただ今回の鑑定結果、何かの間違いであって欲しいので結論は次週に先延ばししています
ET研究所では自前の牛や生産者の方からお預かりした牛への移植を日々の業務として行っています。
移植を行った牛はその後、妊娠鑑定を行い市場に出荷もしくは生産者のもとへ帰っていきます
昨年度は研究所 本場内で、のべ2000頭弱の牛に移植を行いましたので妊娠鑑定もそれと同程度の頭数行いました(残念ながら発情回帰する牛もいるので少し減りますが)
ET研究所では移植から約23日(前の発情から30日)、53日後(発情から60日)そして出荷の直前に妊娠鑑定を行っていますので、その回数は合計すると…。なかなかの仕事量です
ちなみに30日の鑑定はすべての牛で超音波画像診断装置(エコー)を用いています。
上の画像はエコーでの妊娠鑑定画像です。中央の黒い部分に浮かんだ白い物体が牛の胎子になります。まだ胎齢30日ですので牛の形ではありませんが、頭が下にあって胴体があって。移植は大成功だったようです
しかし油断はできません。60日、出荷前の鑑定で胎子がいなくなっていることも実はあります
30日の鑑定のときに胎子がいなくなることが予想できることもありますので、そのうち胎子がいなくなる予兆の画像も紹介したいと思います。