PGに頼らない子宮蓄膿症治療への挑戦
色々と考えさせられる論文があったのでご紹介します。
先に言いますが、挑戦は失敗に終わっていますのでタイトルを見て期待してしまった方はごめんなさい。
A randomized controlled clinical trial on the effect of acupuncture therapy in dairy cows affected by pyometra 2020
子宮蓄膿症の治療として、まずはPGF2αを投与するなどして、黄体を退行させる必要があります。日本の獣医師ならばだいたいそうすると思います。
今回の報告ではPGを使わない子宮蓄膿症の治療に挑戦しています。
さて、何をしたか。
PGを使わない…。
薬を使わない…。
薬の入っていない注射。
注射。
針!?
と筆者らが考えたかはわかりませんが、この文献では鍼治療を行なっています。
そんなんで治るのかよ、と思ったみなさん。甘く見てはいけません。
鍼治療で繁殖性が改善したという報告はちらほらあるのです。
経絡を鍼で刺激するのが鍼治療ですが、刺激できれば何でも?良いそうで熱で刺激するお灸も鍼と同じ戦略です。
今回は鍼治療とレーザー刺激の2パターンを実施しています。
さてその効果は!
とまあ冒頭書きましたが、残念。効果はありませんでした。
はい、全く。
何がしたいんだよ!とツッコミが入りそうです。私も論文読んで思いました。
ただこの実験を行なった経緯を読むと色々と考えさせられます。
この研究はアメリカの報告ですが、アメリカでは通常の牛乳とは別にオーガニック認定を受けた牛乳が販売されています。
このオーガニック牛乳を生産する牛には、なんとPGを投与することができないそうです。他にも抗生剤が使えないとか、遺伝子組み替えの飼料を与えられないとか、非常に厳しい基準が設けられています。
そのため、今回のような普通だったらとりあえずPGとか抗生剤という治療が行えず、何とかして治療する方法がないか検討しているそうです。
子宮内膜炎の治療に出てきたキトサンもこの流れなんでしょうね。天然由来で治療しようというコンセプト。
他にもオゾンで治療とか一見すると驚く治療方法ですが、それのような戦略をとらざるを得ない世界があることを学びました。
今、付加価値で強い農業を推進する流れがあると思いますが、オーガニックなんかはそれに該当するものの1つだと思います。ちなみにオーガニック牛乳は通常の倍くらいの値段だそうです。
トンデモナイ研究だ、といって受け入れないのではなく、我々も農家さんのためを思うならばそういった世界もあるという広い視点も持って仕事にあたる必要があるのかなと考えさせられました。